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JAWRO 学会助成 川村麻里子先生の報告書

2013.05.09

日本女性放射線腫瘍医の会 学会助成事業 報告書

福井県立病院陽子線がん治療センター 川村 麻里子

 

日本女性放射線腫瘍医の会、学会助成事業に採択いただき、4 月 11-13 日に MD アンダー ソン癌センターで開催されました「1st Annual MD Anderson Proton Therapy Center Workshop」に参加しましたのでご報告いたします。

 

近年、世界的に陽子線治療施設が急増する中、同治療の標準化を目指し、今回初めて陽子 線治療ワークショップが開催されました。初回ということもあり、世界中から 70 名ほどの 参加がありました。ワークショップでしたので、実際の治療計画や QA のデモンストレー ションなどもあり、かなり実践的な内容でした。現在、米国で陽子線施設を建設中の施設 の物理士の参加が多い印象でしたが、治療計画装置や治療計画支援ソフトの会社から派遣 された物理士の方などもいらっしゃり、陽子線治療への期待を感じることができました。 一方で、物理士をターゲットとした内容だったため、医師である私には少し難しい内容も ありましたが、同時に治療計画における物理的不確定性などを理解でき、大変興味深かっ たです。 今回の最大のテーマは、陽子線物理における「不確定性」を理解することだったと感じま した。治療計画装置の不確定性、物理現象の不確定性、物理的不確定性が RBE に与える影 響など、陽子線治療を患者に提供する上で現在、我々が一般的に使用している治療計画装 置では正確に表示することができないものがあることや、十分に証明されていないことが まだ多くあることを理解し、その中で治療計画をたてていることを自覚することが重要だ ということが最大のメッセージだったのではないかと感じました。不確定性の計算アルゴ リズムの理解まではできなかったですが、治療計画を物理的に考えることは非常に新鮮で おもしろかったです。中でも印象的だった議論があります。頭頸部の planning のセッショ ンで、講師の方が「CTV に十分な線量を届けるためには・・・」と説明をしたところ、会 場から、「CTV ではなく、PTV ではないのか」と反論がありました。それに対し、講師は「医師が十分照射したいと思っているのは CTV だから CTV と言うが、そちらの施設では PTV と呼ぶなら今日は PTV と言おう」と冗談交じりにおっしゃいました。当然、質問をし たのはおそらく医師で、講師は物理士です。医師が CTV に対して PTV を作成する主な目 的は intra+inter fractional motion を考慮してのことなのですが、物理士にとっては物理現 象の不確定性も含める必要があり、それを含めて初めて PTV というものができる、という 議論です。頭頸部は intra+inter fractional motion が少ないため、医師が意図する PTV マ ージンよりも物理的 PTV マージンが上回り吸収されてしまう可能性があるため、この様な 議論になったわけです。

ワークショップは朝 7 時半の朝食会から始まり、夕方 6 時までランチョンもあるので缶詰 でした。休憩も 2-3 時間毎にしかなく、午後の講義は時差ボケとの戦いでした。初日の夕方には陽子線センターでレセプションもあり、Cox 先生や Komaki 先生も参加下さり、大変 有意義な時間を過ごすことができました。最終日の土曜日は陽子線センターで実際の QAを見学させていただき、ワークショップは終了しました。

今回、折角 MD アンダーソン癌センターに行くことができるということで、1 日早く現地 入りさせていただき、癌センターの見学も併せてさせていただきました。朝 8 時半から 1 時間ほど、肺癌治療について、実験系から臨床までのレクチャーがあり、その後、Komaki 先生の外来見学をさせていただきました。昼には SBRT カンファレンス(症例カンファレ ンス)を拝聴し、午後は陽子線センターに移動し、センターの医師と治療について意見交 換した後、実際の治療風景も見せていただきました。MD アンダーソン癌センターで行われ ている治療と日本で行われている治療の内容には大きな差はないと感じましたが、治療に 関わるスタッフの数が大きく違います。22 台のライナックで 1000 人を超える治療を毎日 行い、陽子線センターでも 1 日に 100 人以上の患者を治療しています。放射線治療医は 60 名ほど、Photon だけでも dosemetrist が 50 人以上います。現在、当院で行っている治療 は施設が小さい故に細かい意見交換など行いながらできている治療と同じものを 20 倍以上 のスタッフ、患者数で行えていることに感銘を受けました。

 

最後に、Komaki 先生から JAWRO の先生方へのメッセージをいただきましたのでご紹介させていただきます。私の和訳が正しければ、になりますが

「女性が JASTRO などの理事などを務めるには自分が JASTRO に何ができるのか、エビ デンスを示さなければいけません。Publication は非常に有用な手段だと思います」

多くの JAWRO の先生方は日常診療に追われ、家事、子育てに追われ、なかなか論文を書 いたり、データをまとめたりする時間が持てないと思います。私自身も 3 歳、7 歳、3?歳 男児の子育てと日々の診療に完全に疲弊しきっている毎日です。しかし、今回、この様な 機会をいただき、またモチベーションを保つことができました。この様な機会を与えて下 さいました JAWRO の関係各位の皆様、今回の研修にあたり、バックアップ下さった病院 スタッフの皆様に深く御礼申し上げますとともに、研修報告をさせていただきます。あり がとうございました。